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名古屋高等裁判所 昭和51年(ラ)171号 決定 1976年10月12日

抗告人

平野成根

右代理人

東浦菊夫

外一名

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人は、原決定を取り消し、さらに相当な裁判を求め、その理由は別紙のとおりである。

所論は要するに仮差押命令の申請取下は民事訴訟法一一五条一項の「担保の事由の止みたる場合」に該当するというのである。

記録によれば抗告人は昭和五一年七月一六日債務者株式会社菊秀に対する約束手形金債権を保定するため、債務者の第三債務者株式会社松坂屋に対する債権について名古屋地方裁判所に債権仮差押命令の申請(同庁昭和五一年(ヨ)第七六九号事件)し、同月一七日その旨の決定を得たこと、そして右決定の送達を受けた第三債務者は同月二三日原裁判所に債務者の第三債務者に対する債権は存在しない旨の陳述があつたこと、そこで抗告人は同年八月一八日右仮差押申請を取下げたこと、以上の事実が認められる。

しかして民事訴訟法五一三条三項、一一五条一項は、担保権者に対して権利行使の催告をしないで担保取消決定をするものであるから、担保債権(仮差押債務者の債権者に対する損害賠償債権)の発生の可能性の殆んどない場合、すなわち仮差押が債権者の有利に確定した場合に限り通用されるのであつて、不利に確定した場合には、常に同法一一五条三項が適用されるのである。そして仮差押命令申請の取下は仮差押が債権者の不利に確定した場合であるというべきであるから、本件について同条一項を適用すべき余地はない。

なお本件は前記のように仮差押命令の送達後第三債務者よりの被差押債権が存在しない旨の陳述によつて右債権が存在しないことにより右仮差押執行が不能であるとして取下げられた場合であるけれども、右陳述のみで被差押債権が存在しないものであるとはにわかに確定できないところであるうえ、はたして仮差押執行が不能に終つたか否かはたやすく判別しがたいところであり、仮に執行不能であつたとしても、かかる仮差押命令が第三債務者に送達されたことによつて債務者が損害をこうむる可能性がある以上、同条三項によつて担保取消をなすのが相当である。

そして記録によれば本件仮差押の本案訴訟が名古屋地方裁判所に係属していることが認められるから、本件は訴訟が完結したとはいえない場合であることは明白であつて抗告人の本件申立を却下した原決定は相当である。

よつて本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人の負担たるべきものとし、主文のとおり決定する。

(丸山武夫 杉山忠雄 高橋爽一郎)

抗告の理由<省略>

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